会長挨拶

会長 箕口 雅博 

 

 日本個人心理学会は、アドラー心理学すなわち個人心理学の普及と深化を目指して2019年に設立され、先代会長のもと、アドラー心理学の実戦と研究に長年取り組んでこられた同志の先生方、そして会員の皆様のご尽力によって築き上げられてきた比較的新しい学術団体です。会長という重責を担うにあたり、改めてその道のりを振り返り、先人たちの情熱と献身に深く敬意を表する次第です。 

 

 アドラー心理学は、「共同体感覚」「勇気づけ」「目的論」といった普遍的な概念を通じて、個人の成長と幸福、そしてより良い社会の実現に貢献する力を持つ心理学です。現代社会は、VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の時代と称されるように、不確実性、複雑性に満ち、人々の心には不安や孤立感が広がりやすい状況にあります。このような時代だからこそ、アドラー心理学が提唱する「共同体感覚」の醸成や、「勇気」を持って困難に立ち向かう姿勢の重要性は、ますます高まっていると確信しております。加えて、アドラー心理学は教育や哲学や思想もその範疇にあります。紛争解決や幸福論など生き方や人生にまつわる諸問題にもアドラー心理学は深い示唆をもたらしてくれます。 

 

 個人が自らの可能性を信じ、他者との協働の中でより良く生きるための指針を提供するアドラー心理学の知恵は、今、まさに社会が希求していることではないでしょうか。 

 

 会長として、特に注力したい点は、第一に、学術研究のさらなる推進です。理論的深化はもちろんのこと、臨床、教育、産業といった様々な分野におけるアドラー心理学の実践的有効性を科学的に検証し、エビデンスにもとづいた知見を社会に発信していくことが重要です。若手研究者の育成にも力を入れ、次世代を担う研究者が育つ土壌を培ってまいります。第二に、国内外の関連学会や団体との連携を強化し、より広範な視点からの知見の交流を促進することです。アドラー心理学は国境を越える普遍性を持つと同時に、それぞれの文化や社会状況に応じた多様な発展の可能性を秘めています。第三に、アドラー心理学に関心を持つ幅広い層の方々への普及活動です。専門家だけでなく、一般の方々にもその魅力と有用性を伝える機会を増やし、社会全体におけるアドラー心理学への理解を深めていくことも、本学会の重要な使命であると考えます。 

 

 そのためには、会員の皆さま一人一人の積極的なご参加とご協力が不可欠です。学術大会・研修会への参加、研究発表、学会活動への貢献など、皆さまそれぞれの形で本学会を支えていただけると幸いです。会員の皆さまの相互交流を通して、共に学び、成長しながら、開かれた、そして活力のある学会運営を目指してまいります。 

 

 まずは、一人一人の会員の皆さまが学会へのコミットメントを高め、日本個人心理学会というコミュニティに属する意味と意義を感じていただけるよう力を尽くしてまいる所存です。何とぞご理解とご協力をいただけますようお願い申し上げます。